Q.離婚協議中です。夫の住宅ローンを肩代わりしたいのですが、どの銀行にも門前払いされてしまいます。
夫はともかく、私は他に借金も無いですし、クレジットカードもほとんど持っておらず延滞のしようがありません。
なぜ、離婚予定というだけで住宅ローンの審査が通らないのでしょうか?
A.住宅ローン審査をする側にとって、離婚予定者の案件はリスクが多々あるからです。
ひとつは、返済余力の問題。もう一つは、資産隠しに加担しかねないという問題です。
以下は、元銀行員で住宅ローン診断士の立場からお伝えします。
離婚者の返済余力の問題
弊所への相談者も、多くは妻側が、夫名義の自宅を貰い受け、離婚後は自分名義でローンを組んで支払い続けることを希望しています。
そして、妻側も正社員で長期間勤務している場合などは、勤務形態の属性診断ではお一人で申し込んでも希望融資金額の審査条件にあたっては申し分ない条件であることが少なくありません。
しかしながら、当初の住宅ローンを連帯債務やペアローンで組んでいる場合など、当初のマイホーム購入計画上は、ご夫婦で協力しあって資産形成することを企てていたという前提が成り立ちます。
その後、離婚を余儀なくされ夫婦の一方が単独で住宅ローンを支払うとなると、書面上の心象では、単純に、返済余力が低くなることが想定されます。
借換え等で新たに住宅ローンを申し込む場合は別として、いままで利用していた金融機関に対してローン名義の一方への一本化を申し出た場合、銀行が希望通りにしてしまうと、単純に返済を宛にしていた人がひとり減ることになります。
金融機関側としては、これをリスクが増す捉えることになってしまうのです。
また、事情を詳しく聞いて親身になって、なんとか従来のローン名義を夫婦の連帯債務から一方のみの名義に変更したところで、悲しいかな、新たな住宅ローン契約を獲得したという実績にはならず、社内稟議書作成の手間だけが増えてしまうといった事情もあります。
仮に、ローン名義の一本化の申し出を受けたとしても、新規の住宅ローン申し込みがあった場合と同様の審査手続きをしなければならないばかりか、社内稟議が通ったところで自分や支店の成績には何も影響しないのです。
ただでさえ忙しい銀行員とすると、窓口で離婚の事情を聞いた段階で『お客様の離婚と当行のローン債務とは無関係ですので、ローン名義の変更は不可です。』と答えてしまった方が楽なのです。
偽装離婚の可能性も少なからず疑われる
この記事を読んでいる方にはそのような企てをしている人は居ないと思いますが、実は離婚に伴う財産分与は、債務に追われた方の財産隠しの手段に使われる事があります。
例えば、夫の多額の借金が返せなくなり返済が遅滞すると、債権者は債務者の資産を探して差し押さえを図ります。
このとき、債務者名義の不動産があると、まず間違いなく差し押さえ対象財産として目を付けられます。
そして、離婚を偽装して、不動産名義を財産分与の名目で妻名義に変更してしまい、自分は自己破産してしまい、借金の取り立てから逃れることを企てるということが、事実として事例で多数あります(もちろん詐欺破産罪という犯罪です)。
財産分与という行為は、資金のやり取りをせずに不動産名義を変更するということだけに着目すると、大義のある資産移動手段とも言えるのです。
住宅ローンの話しに戻します。
万が一、離婚予定として一方に財産分与として自宅と住宅ローンを一本化した後に、偽装離婚が発覚して、債権者が詐害行為取消権を行使して自宅名義が夫名義に戻ってしまった場合、銀行としてはローン債務者名義の担保である不動産名義が変わってしまうことになります。
理屈上は、住宅ローンに対しても第一順位で担保が設定されているので、担保価値という観点で見ると銀行に実害は無いのですが、無用なトラブルを避けたい銀行員としては、そもそも触らずに放置しておいた方が無難、という思考が働くことも否めません。
離婚予定を伏せて銀行に借換えの申し込みをした場合
それほどあれこれ疑われるのはイヤだから、いっそのこと自分名義に変更したいので、離婚を伏せて銀行に直接ローンの申し込みをしたい、というご相談も少なからず受けます。
これも、結論から言うと無理だと思います。
なぜなら、住宅ローン借換えの場合、従前の契約内容をしっかりと把握したうえで、なるべく銀行側としての条件が悪くならないよう検討します。
このとき、いままでの住宅ローンが連帯債務の契約であった場合、今回も連帯債務を勧められると思います。
色々と事情を加えて、妻単独名義にしたいなどと申し出ても、おそらく最終審査の段階で、夫の連帯保証を付けることを条件として付けられたりします。
では、このような状態で、一方の単独名義で住宅ローンの審査に通るにはどうすれば良いのでしょうか?
第三者を間に入れて信憑性を上げる
この手段で必ずうまくいくという訳ではないですが、弊所が金融機関と交渉するにあたって、金融機関側の考えるリスクを排除するために、第三者機関を間に入れることで審査条件をクリアさせることがあります。
そもそも、親族間売買による住宅ローンは最初から断る姿勢の金融機関もあります。
これは、親族間売買で売買金額を市場価格よりも高く、または低く設定して、ローンの不正利用や反対に少額での資産移動に住宅ローンを利用させないための審査基準です。
このとき、不動産仲介業者を間に入れることにより、親族間売買と言えども適正な価格で売買が為されたということを、不動産業者を間に入れることで担保させるという効果があります。
同様に、協議離婚であれば離婚協議書を弁護士や行政書士などに作成を依頼して、適正かつ円満に離婚協議が行われ、不正な意図なく財産分与が行われたということを、専門家を間に入れることで担保させるという効果があります。
いずれも弊所で交渉によりローン審査を通した実績によるものですが、どの銀行でもローン案件は個別の相談にしか応じられないという姿勢であることも事実です。
できるだけ誠実に、金融機関に対して交渉して、金融機関がどんなリスクを排除したいのか、を確認することで、住宅ローン一本化の可能性は高まるものと思います。