Q.離婚協議中です。自分の年収でもローン返済できるので、夫の住宅ローンの名義を変更したいのですが、銀行に断られてしまいました。
離婚後も子どもの生活環境を変えたくないので、夫名義のいまのマイホームを買い取るつもりです。
けど、いま住宅ローン利用中の金融機関に相談したのですが、「うちでは変更は無理です」と門前払いされてしまいました。
なぜ、自宅も住宅ローンも自分名義に変更するにはどうすれば良いのでしょうか?
A.住宅ローンの債務者の名義変更は原則受け付けません。新たに住宅ローンの審査を申し込む方が早道です。しかし、ここにも難関はいくつかあります。
ご相談のような内容で、離婚前に夫名義の自宅や住宅ローンを自分名義に変えたい場合は、いま住宅ローン利用中の銀行に変更を申し出るよりも、新たに住宅ローン利用の申込みをした方が良いです。
以下は、元銀行員で住宅ローン診断士の立場からお伝えします。
なぜ住宅ローンの名義変更はできないのか?
住宅ローンは、金融機関とローン利用者が、金銭消費貸借契約という契約を結びローンが実行されます。
金銭消費貸借契約とは、簡単に言うと借金をするときの契約です。
一般に住宅ローンは、数千万円のお金を金融機関から借りて20~30年の長期に渡って支払う約束をするわけです。
当然ローン審査時には、多数の確認資料を申し受けて厳格に審査します。
金融機関から見ると、これだけ時間と労力をかけて審査をし実行した住宅ローンについて、債務者の都合で離婚することになったので、妻名義に変えてほしいと言われても、まず「はい分かりました」という返事は期待できません。
いまのローン名義を変えるよりも、新たに債務者となる方が銀行で新たな住宅ローン申込みをした方が良いです。
親族間、個人間の取り引きはでは住宅ローン審査に通らない
ただし、いま利用中の金融機関はもちろん、他の銀行で住宅ローンを申し込んだとしても、次に大きなハードルがあります。
金融機関の住宅ローンは、個人間売買となる住宅ローンは取り扱わない場合が多いからです。
とりわけ、不動産時価が高いなど、財産分与で相手方に精算金を渡さなければならない場合、その資金を住宅ローンで調達することは殆ど不可能です。
住宅ローンは、個人間はもちろん親族間売買の資金調達に利用できないからです。
なぜ利用できないかというと、取引が適正であるか否かの第三者の判断がなされておらず、取引価格が不正に引き上げられて不正な融資に利用される場合があるからです。
そもそも、一般に住宅ローンは、新規に自宅を購入または建築する際の支出費用を資金使途としてローン審査をすることが前提になっています。
銀行員は、これら売買契約書や請負契約書を確認し、確かに住宅購入や建築資金の調達であると確認し、住宅ローン実行額が適正であると判断して審査されます。
ですから、窓口に持ち込まれた案件概要を聞いたときに、離婚予定の財産分与の精算金などは資金使途の想定として為されていないばかりか、当事者間で決めた不動産評価が適正であるかどうかの客観的判断もできません。
見たこともない案件に時間を取られるよりは、窓口で断ったほうが無難なのです。
不動産業者を通すことの限界
不動産評価額が適正であることを担保するために、個人間であっても不動産業者を通じて取り引きしたことにして、住宅ローンの審査を通すという手段もしばしば用いられます。
しかしながら、ここでも不正な業者が少なからず居り、個人間売買を市場取引のように偽装し、不正な金額を調達するなどの事例がありました。
このため、現在金融機関によっては、不動産業者が不正を行っていないかなどの調査を同時にするところもあります。
過去に不正取引で行政処分が為されている業者ですと、たとえ形式的に不動産業者を通したとしても、審査に通らない可能性が高いです。
不動産業者を通した取引であるとしても、売り主と買い主の住民票上の住所が一緒なのが分かると、すぐに親族間売買であると分かってしまいます。
どこまでなら見破られないか、などの問題ではなく、やはり審査通過ありきで偽装してしまうと、思わぬところでボロがでてしまうことがありますので、決してお勧めはできません。
ではどのように審査を通すのですか?
これまであげたように、弊所でも離婚後に夫名義の自宅に妻と子どもが住み続けたい、という要望が多く、そのため住宅ローンを利用したいとう相談を多数受けます。
では、銀行にはどのようなワザを使って審査を通すのか、と聞かれましても、決して偽装や高度なテクニックを使っているわけではなく、申込者の事情をストレートに金融機関に伝え、端的に理解してもらうよう地道に交渉しているだけです。
その交渉の中で、金融機関から『免許を受けた不動産業者を間に入れて適正な価格を担保して欲しい』『弁護士や行政書士の作成した離婚協議書を提示して欲しい』などの要望があった場合には、その金融機関の要望に対応しているだけです。
ですから、弊所で扱う案件では、離婚予定の事実を隠すとか、業者間売買を偽装するなどの手法は取りません。
繰り返しになりますが、あくまで実態を正確に把握し、金融機関と地道に交渉をしているだけです。
確かに簡単ではなく面倒な作業ですが、晴れてローンが実行され、希望通りお子さんの環境を維持して守っていくことができるという理想を追い求めるお手伝いをするのみです。