養育費

離婚後の養育費を、確実に支払ってもらう方法はありますか?

投稿日:2019年5月12日 更新日:

離婚後の養育費を、確実に支払ってもらう方法はありますか?

Q.離婚後、 私(妻)が自宅のローンを払い続け、マイホームに子供と住み続けることにしました。

ギリギリですが、私の収入でなんとか住宅ローンを支払うつもりですが、夫からもらう予定の養育費も、今後の生活上あてにしていることも事実です。

元夫は、金銭感覚にルーズな人だったので、養育費を支払い続けてくれるかどうか不安です。

離婚後の養育費を、確実に支払ってもらう方法はありますか?

A.正確に答えると、確実に支払ってもらう方法はありません。しかし、もし養育費の支払いが滞ってしまった場合に備えて、準備しておく方法は多々あります。

以下は、元銀行員で強制執行の経験者の立場からお伝えします。

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養育費の回収は2人に1人

厚生労働省の『平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要』によると、養育費の取り決めをしている母子世帯の割合は42.9%(前回平成23年度調査時37.7%)という調査結果です。

そして母子世帯全体での養育費の受給状況は、父親から現在も養育費を受け取っている世帯の割合が24.3%(同19.7%)、 つまり、養育費を取り決めしていても、その後養育費を受け取っている世帯の割合は、約半数の56.6%ということです。

養育費が滞ってしまった場合で強制的に回収するためには、法的手続きに従って強制的に回収する手段をとります。

この手続きに備えた準備をすることが必要です。

なぜなら、支払いが滞ったからといってすぐに強制執行するというわけでなく、支払わなければ強制執行も辞さないという姿勢をみせた方が、圧倒的に交渉が有利になるからです。

いつでも強制執行できるという準備状況を相手方に伝えることで、実際に強制執行の手続きをするまでもなく、交渉で解決できる可能性が高くなります。

では、そのためにはどんな準備が必要なのでしょうか?

養育費回収のために必要な準備

法的手続きに従っての養育費債権の回収、いわゆる差押えについてです。

結論から言うと、確実に相手の資産を差押えるに必要なことは、スピードと相手方の情報です。

スピードについては後回しにして、どんな情報を収集しておくべきか、についてお伝えします。

債権回収で一番問題になることは、裁判所の手続きを経て強制執行できるようになって(債務名義を取得する、と言います。)からなのです。

なぜなら、裁判所は、強制執行できる旨の判決は出しますが、相手方の資産状況を調べることにまでは、強制力が無いからです。

このため、これから離婚の協議をすすめるのであれば、特に夫婦で築いたはずの共有財産の所在について、しっかりと把握しておく必要があります。

銀行等資産を預けている口座と支店名の確認

とくに、会社勤めで給与振込口座がはっきり分かれば有力な情報になります。


銀行口座であれば、口座番号までは必要ありませんが、銀行名だけでなく支店名まで必要です。

支店名が分からなければ、キャッシュカードに記載されている支店コード番号などで知りうることができるでしょう。

また、稀に給与振込口座を変更する可能性もありますので、他に銀行口座がないか、郵送物などを確認して調べておくと良いでしょう。

株式を保有しているようであれば取り扱っている証券会社、学資保険や加入している生命保険会社などを知っていると、有力な情報になります。

保証人を立ててもらう

将来の金銭の支払いを約束してもらう訳ですから、その信用状況によっては、保証人を立ててもらうことは有力です。

とくに、離婚原因が相手方にある場合には、有責配偶者として離婚の責任を負う負い目があるでしょうから、例えば義父などに養育費の連帯保証人を頼んでもらうよう検討すべきです。

つまるところ、担保や保証人の提供を要求するには、支払いの遅滞が始まってからでは間に合わないのです。

ですから、離婚協議書という契約を結ぶにあたり、要求できる可能性のあるものは、相手に要求してみるべきだということです。

離婚後の勤務先の情報を確保する

強制執行において、有力な差し押さえ先は、相手方の勤務先に対しての給与差し押さえです。

一般のサラリーマンの場合、後に記載するような理由で、給与をねこそぎ差し押さえるということは認められていません。

しかしながら、自分の勤務先に対して差し押さえ命令がくるということによって心理的に圧力をかけることができます。

このため、離婚後も勤務先の情報を報告する義務を課すか、児童扶養手当の可能性とも比較しながら、子供を相手方の扶養に入れて、更新毎に健康保険証を送付するよう約す方法などが考えられます。

いずれにしても、心理的負担のない範囲内で、相手方の勤務先の移動情報は確保できるよう、離婚協議をすすめることは有力です。

相手方が資産を開示しないとき

相手方が、夫婦で築いたはずの財産を開示しないときは、公的機関の力を借りて情報の開示を要求するという方法があります。

具体的な手続きとして、家庭裁判所の調停や審判、不調に終わったあと裁判になったとした場合には、家庭裁判所で調査嘱託申立という制度により、相手方の資産状況を開示する手続きがあります。

相手方が資産を開示しないという時点で争いがある状況と思われます。

ですから、詳しくは弁護士さんの相談した方が良い事案ではありますが、このときにも、何も情報が無いよりは、先に記載した銀行名と支店名、証券会社、保険会社などの情報があると、開示される可能性は高くなります。

公正証書が威力を発揮するとき

離婚するにあたり、養育費など、将来支う約束をする場合には、たとえ協議離婚であっても、強制執行に備えてかならず調停を申し立てて調停調書を作成しておくか、離婚協議書を公正証書で作成しておくべきです。

なぜなら、強制執行をするまでのスピードが早いからです。

反対にいうと、将来支払ってもらう債権がない場合には、わざわざ公正証書を作成する必要がないと言っても過言でないでしょう。

例えば、子供との面会交流権の約束や、将来不動産の登記名義の変更を約束する場合などです。

これらは、たとえ公正証書にその旨記載されていたとしても、強制的に実行させることはできません。

余談ですが、もし子供との面会交流権を担保させたいときは、やはり調停を申し立てて面会交流権の約束ごとを、調停調書に記載してもらうほうが効果があります。

調停調書に記載されていたところで、裁判所の執行官がむりやり子供を引き連れてくることは出来ません。

しかしながら、約束を履行しない相手方に対して、裁判所から履行勧告をしてもらう手続きや、それでも約束を履行しない場合には、間接強制といって、裁判所が相手方に対して、間接強制金を課すことを警告させるよう申し立てることができるからです。

なお、離婚協議書を公正証書で作成する場合には、強制執行認諾条項を記載してもらうことを忘れないことと、できる限り債務者となるべき夫に公証人役場まで出向いてもらい、公正証書作成当日に、公証人による交付送達をしてもらうことを忘れないでください。

言葉が難しくても、専門家に依頼するか公証人に文字通り伝えれば、問題なく理解してもらえるはずです。

裁判所は資産探しの手伝いをしてくれない

一般に、強制執行できる権利(債務名義)を得たあとの相手方の資産調査については、裁判所はまったく手伝ってくれないと思った方が良いでしょう。

余談ですが、私は強制執行の経験で、動産執行と言って裁判所の執行官と一緒に相手方の家のカギをこじ開けて、室内にある動産の強制執行に立ち会ったことがあるのですが、このとき、テレビや冷蔵庫、電子レンジやエアコンなどの生活上の電化製品は差押え禁止資産であり差し押さえ不能です。

さらに余談ですが、銀行預金の50万円は差押えできるものの、テーブルの上においたままの50万円は差押えできないことになっています。

なぜなら、憲法に以下の条文が記されているからです。

第25条【生存権、国の生存権保障義務】
1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 

上記にあげた資産を差押えると、最低限度の生活を営む権利を剥奪しかねないという理由(その他諸理由あります)があるからです。

話しを元へ戻します。

たとえ借金を返さない債務者であったとして、人権は保証されているので、なにもかもむしり取ることはできませんし、そのような手伝いは裁判所はしないのです。

このため、債務者の資産状況については、大原則として債権者が調べなくてはなりません。

大事なことは離婚協議時の準備

債権回収は、相手が遅滞してからでは交渉による解決の手段が極めて狭められます。

言ってみれば、当初住宅ローンの審査によって金融機関があなた方の審査をしたと同様の慎重さを、相手方に対しても求める必要があります。

ただし、相手方に資産が全く無くなってしまった場合などは、やはり無い袖は振れないので、確実に回収できるという方法はないことになってしまいます。

準備の仕方次第では、債権回収が不能になる事態は、極力避けることができるはずです。

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