Q.夫婦の連帯債務で住宅ローンを利用しています。持ち分は、私と夫の50%ずつです。
離婚するにあたり、自宅の名義をすべて私(妻)の名義に変更したいと思います。その際、夫の持ち分を買い取って精算したいのですが、離婚後に養育費を受け予定もあるので、それと相殺できないかと考えています。
自宅の夫持ち分を精算するための資金と、将来の養育費を一括してもらうことで相殺することは可能ですか?
A.可能ですが、相手の同意が必要であるという点と、税制面で問題が生じる可能性がある点を、把握する必要があります。
離婚後に養育費を一括で受け取れるときの問題点
養育費は、学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品(所得税法9条1項15号)とみなされるため、本来所得税等の税金は課されません。
しかし、これを一括で受け取るとなると、少し事情が変わります。
そもそも養育費の請求権は、配偶者でなく子供に権利があります。
子供の権利としての養育費を、離婚後の親権者または監護権者が、子供の代わりに受け取っているということになります。
そして、養育費の請求権は、毎月発生するので、本来は離婚後の養育費支払いは、毎月為されるべき債務の履行ということになります。
ですから、養育費を一括で申し受けるとしても、支払う側の承諾と履行が必要です。
そして、将来分の養育費受け取りは、前払いの性格を有するものになります。
したがって、仮に将来、親権者または監護権者が、何らかの事情で子供を育てる環境に無くなった場合には、将来の養育費として一括して支払った者に対して、返金すべき金額ということにもなります。
もし相手方が養育費を一括して支払うことに同意してくれたとしても、月額幾らの養育費を、いつの分まで前払いするのか、などを取り決めて離婚協議書等書面に落とし込む必要があるでしょう。
養育費を一括で受け取ったときの税金問題
原則として養育費をもらっても、所得税は課されません。
また、扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの(相続税法21の3条1項2号)にも該当するとみなされるので、贈与税の対象にもならないことになっています。
しかし、一括して養育費を申し受け、そのまとまった資金をなにかの購入に充ててしまうと、話はやや変わります。
なぜなら、生活費又は教育費に充てるためのものとして贈与税の課税価格に算入しない財産は、生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいうものとする。(相続税基本通達21-3の5前半)というように、月々申し受ける金額は贈与税の課税価格に参入しないものとしています。
しかしながら、生活費又は教育費の名義で取得した財産を(中略)家屋の買入代金に充当したような場合における(中略)買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。(同21-3の5後半)というように、まとまった資金を家屋の購入代金に充てた場合は例外であるとも示しています。
つまり、一括して養育費を申し受けた場合には、税金の問題もクリアしておくべきだということです。
それでも養育費は一括してもらったほうが良い理由
確かに、税金の問題はクリアしておかなければならないと思います。
しかしながら、将来月々申し受ける養育費債権の入金管理するという手間と、養育費が入らなかったらどうしよう、という心配を無くせるというメリットもあります。
さらには、養育費の支払い状況は、驚くほど悪いと言わざるを得ないからです。
厚生労働省の『平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要』によると、養育費の取り決めをしている母子世帯の割合は42.9%(前回平成23年度調査時37.7%)、そして母子世帯全体での養育費の受給状況は、父親から現在も養育費を受け取っている世帯の割合が24.3%(同19.7%)です。
つまり、養育費を取り決めしていても、その後養育費を受け取っている世帯の割合は、約半数の56.6%です。
養育費を取り決めても、2人に1人くらいは養育費の支払いが滞っているということを、データが示しているのです。
離婚後の住宅ローンと養育費一括請求の理想の最終形
まず、当センターとしては、養育費を一括で貰えるのであれば、もらったほうが良いというスタンスです。
課題は税金の問題ですから、養育費の一括支払いに配偶者の一方が合意したのであれば、それについての離婚協議書案を作成して、所轄の税務署に贈与税の問題を確認しておくべきでしょう。
その際、相続税基本通達21-3の5の指摘は、生活費又は教育費の名義で取得した財産を運用したり、家屋等の購入資金に充当した場合には、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うと示しているのですから、共有名義の相手持ち分の買い取りにあたっては、住宅ローン等で調達できるという準備があると、なお説得力は高まると思います。
もちろん、金融機関別の審査要件を把握していなければならないことですが、当センターで事前にご相談くだされば、最新の情報と確度の高い見通しは立てられると思います。