Q.離婚後、マイホームには夫が住み続け、私は出て行きます。
自宅の名義は夫との共有名義で、住宅ローンは、夫との連帯債務で契約しています。
離婚後には私が出て行きますが、夫は、私も連帯債務者だから住宅ローンを支払うべき、と言われています。
私には、夫に対して住宅ローンを支払う義務があるのでしょうか?
A.住宅ローンの連帯債務者であるとすれば、住宅ローンの債権者宛に返済する義務はあります。
別の言い方をすれば、求償権に基づく請求である場合を除き、夫に対して支払う義務はありません。
むしろ、離婚後にあなた名義でもある自宅に住み続ける夫に対して、あなたの持ち分に応じた賃料を請求すべきです。
以下は、行政書士の立場からお伝えします。
離婚後、相手方から住宅ローンの返済を求められたとき
結論をいうと、あなたが今住んでいない不動産について、相手方から住宅ローンの返済を求められたときには、事実上拒否して構わないと考えて良いです。
確かに、あなたが住宅ローンの連帯債務者となっているままですと、債権者に対して借金を返済する義務を負っています。
ただし、住宅ローンの返済をすべき相手は、相手方ではなく住宅ローンの契約をした金融機関に対してです。
例えば、自宅の持ち分が、あなたと夫が半分づつであって、住宅ローンの契約を夫との連帯債務で利用している場合について考えてみます。
住宅ローンの負担割合は50:50であるとします。
この場合、連帯債務者であるあなたが負う住宅ローン取り扱い金融機関に対して負う返済義務は、毎月のローン返済額の半分というわけでなく、その全額に対して支払う義務を負います。
同様に考えると、あなたの夫も、金融機関に対して全額を支払う義務を負っているということです。
そして、他の連帯債務者の負担分も含めて全額支払った連帯債務者は、他の連帯債務者に対して、その負担割合に応じた額を請求できる権利が生じます。
この権利のことを、求償権と言います。
民法第464条 (連帯債務の求償権)連帯債務者(中略)は、他の債務者に対し、その負担部分のみについて求償権を有する。
夫から支払いを求められたとき、この求償権に基づいての支払いを求められた場合には、確かに法的に考えると、あなたは夫に対して支払う義務があります。
しかしながら、離婚後も連帯債務者であるあなたに対して、連帯債務者としてローンの支払いを求められたのであれば、求償権の行使ではないと考えられます。
ですから、他の請求権を行使して、事実上支払いを拒否すべきです。
では、離婚後のあなたの有する権利について考えてみます。
共有不動産名義人の、離婚後の相手方に対して持つ権利
あなたの持ち分がある不動産に相手方が住み続ける場合、相手方は、他人であるあなたが一部所有する不動産に住み続けることになります。
このとき、あなたには、他人となった相手方に対して自分の持ち分割合に応じた賃料を請求する権利があります。
(最高裁判決 平成12年4月7日)
不動産の共有者は、当該不動産を単独で占有することができる権原がないのにこれを単独で占有している他の共有者に対し、自己の持分割合に応じて占有部分に係る賃料相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することができる。
つまり、相手方が住宅ローンの負担割合に応じた支払いを求めるのであれば、同様の金額の賃料の支払いを求めてください。
相手方がローン返済額の半額の賃料を支払うと考えれば、事実上相手方が住宅ローン支払い額の全額を負担することになります。
さらに、相手方が住宅ローン返済額の全額を支払ったとしても、あなたに対する求償権は、賃料相当額と相殺できることになるので、事実上相手方に求償権が得られることも回避できます。
持ち分割合に応じた、適正な賃料とは?
賃料は、貸り主と借り主の合意にもとづき決められるものです。
周辺の相場はあるものの、賃料を確定させるような決まりはありません。
一般に、住宅ローンの毎月の返済額と比較すれば、賃料の方がやや高くなりことが多いです。
上記の例のように持ち分割合が50:50の場合に、住宅ローン返済額の半分以上を賃料として支払うように請求しても、相手方がそれを認める可能性は低いと思います。
しかしながら、あなたの本来の目的が、自分が住まなくなった家の住宅ローン債務者から外れることであるとすると、少し厳しい条件を提示して、相手の協力を得て早く住宅ローンの債務者から外れるよう交渉する、という手段はあり得ると思います。
理想の解決策は、あなたの持ち分を夫が買い取ること
離婚後の夫婦は他人となります。
夫婦共有名義の物件に、離婚後もどちらか一方が住み続ける場合は、その住み続ける人は少なからず他人名義の持ち分のある物件に住み続けることになります。
これを解消するための解決策は、やはり共有状態を避けて、離婚後に住み続ける人の名義に一本化することです。
あなたは不動産の共有名義人ですから、あなたの持ち分をあなた自身の判断で売却することもできます。
もちろん、離婚後に相手方が住み続ける不動産の共有持分を買い取りたいと申し出る人を探すことは、極めて困難であろうとは思います。
しかしながら、ひとりだけ買い取りたいという希望を持つ人がいるはずです。
それは、やはり別れた相手方です。
理想の解決策としては、相手方と誠実に交渉のうえ、相手方に自分の持ち分を買い取ってほしいと要求し、結果的に相手方の名義に一本化するよう目指すべきであると思います。